kiringrafica

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2007/09/24

**-サロメ/ケン・ラッセル

オスカー・ワイルドの戯曲、「サロメ」、その映画。
男娼の館の地下、ワイルドの目の前で館の皆によってサロメが演じられる。合わせ鏡の中をのぞきこんでいるような設定がおもしろさを何倍にもしていた。

出だしがよかったな。
洋館に馬車が近づいていき、その周りで花火を持った子供たちが走り回っている。
映画が始まるよ、始まったよ、という気分が盛り上がる。
あれ、サロメじゃないんじゃないの?と思うんだけれど、観ていくとわかるのだ。

劇の出だしもよかった。豪華で、妖艶で、残酷で。こういうのは思いっきりやってほしい。

サロメ、私だったら男の人に演じてもらうな、と思った。戯曲を読んだときに、「サロメの踊り」ってのはいったいどんななんだろうと思っていたのでちょっと残念だった。
いろんなことがもっと極端でもよいなあ。

いろんな監督に撮ってほしい映画、ピーター・グリーナウェイのサロメなんて、観たいなあ。

2007/09/24

**-十三間堂・通し矢物語/成瀬巳喜男

昭和20年の作品、とてもおもしろかった。
武士道、作法、流儀、そういうのが新鮮。
唐津勘兵衛(長谷川一夫)のキッとした立ち振る舞いがとかくかっこよい。お茶碗の口を拭くとき、歩くときなど首の位置が決まっている。女将(田中絹代)のゆらゆらとしたしぐさもよかった。こちらは肩の位置。
昔の京都の町がのぞけるのもうれしい。街路樹ではなく、明るい木立を歩くといった感じに松や桜がぽんぽん生えている。

三十三間堂を歩くと柱に矢の跡がある。あの長いお堂の、端からもう片端にある的を射抜く、しかもそれを一日に8000本以上続けるのだから、とてつもない体力・精神力だ。

2007/09/22

—突撃!O・Cとスティッグス/ロバート・アルトマン

ジャケ買いというのがあるが、その逆で、ジャケットで却下というのもあるとしたら、このビデオだ。
ハトと、「ふや町映画タウン」のビデオリストを見ながら次に観たい映画をリストアップした。カウンターで題名を告げて、店主の大森さんが奥からこのビデオを持ってきたとき、しまった、と思った。

黄色いビデオには「パロディ・ギャグ満載の爆発コメディ」とある。
ミニカーに乗った派手なチョッキを着た二人。後ろにはアメリカの国旗。

あっれー、私って理解力ないのかな、なんだかこの人たちの言っていることやっていることぜんぜんわかんないぞ。

というのがずーっと続いてついに眠ってしまった。
ハトは途中からわかるようになったそうだ。
ジャケットから判断するのは重要だナ、と思った。

2007/09/02

*– 血と骨/崔洋一

ひっさしぶりに映画を観た。娘を胸に抱きながら。。娘は生涯初の映画がこの一本となった。なんとなく申し訳なく思う親のひざの上で、娘は怒鳴り声、叫び声、喘ぎ声を聞きながら、せわしない映像に注意を向けていた。

とにかく久しぶりだった。梁石日は何冊か読んだことあったけれどこれは初めて。
すごいなあ、何も言えなくなる。在日という背景が、ため息をつかせる。
父親が死んで、映画が終わるんだろうなと思った。とてもストレートだった。

最近の映画は映像技術が向上したからか、字幕が小さいし、画面の情報量が多い。
そういう映画の小さい字はうちの古いプロジェクターでは判別不能だし、薄暗い場面は真っ暗闇だし、役者の顔も見分けるのが難しい。この映画も、登場人物の半分くらいしか追えなかった。それでもビートたけしはひとめでわかった。

2007/03/21

***アマデウス/ソウル・ゼインツ

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの生涯を描いた作品。
宮廷音楽家のサリエリの語りの合間にモーツァルトの生涯が展開される、という典型的なつくり、それで160分、なのに少しも気持ちが離れることがなかった。
モーツァルトの音楽がガンガン流れる。
モーツァルトの音楽って陽気なイメージだったが、そうじゃない、迫りくるものなんだな、と新鮮だった。思いつめた緊迫感ではなく、逃しつつ迫るというか、なんと言ったらいいんだろう、底辺に余裕がある大きなものに包まれている感じがある。いろいろ聞いてみよう。
映画を観終わって眠る。夢の中でもガンガンかかっていた。

2007/03/12

**-西鶴一代女/溝口健二

溝口健二2作目。
こりゃすごいな、やっぱりすごくおもしろいです。
冒頭の、落ちぶれたお春(田中絹代)が五百羅漢を前に男に想いを馳せるところがすごく色っぽかった。
容赦ないところがよかった。

2007/03/04

*–THE 有頂天ホテル/三谷幸喜

お正月くらいからずっと心待ちにしていた作品。
いろいろ笑ったけれど・・・それ以下でもそれ以上でもなかったな。
家では古いプロジェクターを使って映画を観ている。普段は画面の粗さってあまり気にならないのだけれど、この作品ではすごく気になった。それくらいいっぱい役者が出てきて、区別が難しく、台詞も多く、小技も多くて、私の画面処理能力を超えていた。

2007/02/11

**-ラヴィ・ド・ボエーム/アキ・カウリスマキ

ハトの大好きなアキ・カウリスマキ。この映画を前にみたとき眠ってしまったので、恐る恐る。

よかった!
出だしからすごくよかった。倒れ込むところや、人の組み合わせや、いろいろ、いろいろ。
影がよかったな。電車の影に手を振るシーン、あと音楽もよかった。
小物も、3輪の車とか、変な絵画とか、とかとか。
何より、作曲家が新作を披露するシーン。前に(眠りながら)みていたときも、ここは目を覚ました。正確にはハトの笑い声で目を覚めたのだけれど。なんとも言えない!が詰まっていた。
ここかしこといろいろが詰まっている映画なのに、最後は眠くて苦労した。催眠効果が高い映画だ。

2007/01/27

*–利休/勅使河原宏

千利休の話。時代劇。教科書とかでなじみある人物や話しが出てきて、あ、そうそう、と思いながら観た。なにより安土桃山の豪華絢爛さに驚いた。その中で侘びさびを打ち出した利休はすごいな。
おもしろかった。でももう一度観たいという気にはならない。そういう花がない映画だった。

2007/01/22

***ドレッサー/ピーター・イェーツ

1983年、イギリスの映画。ドレッサーとは劇団を率いる老俳優(サー)の付き人のこと。
こ、こ、こ、これはすごかった。
基本的にストーリーも登場人物もめちゃくちゃなんだけれど、老俳優のいばりちらす姿と萎縮する姿、ドレッサーの何かをかくまおうと大きくなったり小さくなったりする姿、そんなのでどんどんひきつけられていく。
ほとんどが薄暗くごちゃごちゃとした楽屋の中で行われているということ、そして裏には大きな舞台がある、という設定も、象徴的でよかった。
老俳優(アルバート・フィニー)にぐぐぐぐっと引きつけられる。舞台の上での演技もすごい。
ドレッサー(トム・コートニー)のくねくねとした動きもよかった。とにかく俳優陣がよかった。
いろんなことがつまっていて、何が正しいのかがわからなくなった。

2007/01/22

*–霧の中の風景/テオ・アンゲロプロス

12歳の姉と5歳の弟が手を握りながらあてのない旅に出る映画。
観ているうちにこの監督の作品、前に見たことあるんじゃないかな、と思った。
雪のシーン、人がいろんな方向に歩くシーン、衣装を売るシーン、大きな手が浮かんでいるシーンなど、戯曲風の凝ったつくりがところどころに挿入されている。
これは何語かな、ギリシャ語かな、と思いながら見ていた。煙突のある工場とか、海の向こうの平たい山とか、とても好きな風景だった。
そういうのにもっと引き込まれてもよいようなものだけれど、気持ちはどんどん離れていった。冬の冷たい雨に濡れるように、芯からの冷えを感じた。それはタイトルどおりだから、すごいことなのかもしれないが、好きになれなかった。温度が合わなかった

2007/01/21

**-拳銃は俺のパスポート/野村孝

日活!コルト!!宍戸錠!!!
  (拳銃と書いてコルトと読む)

わー、明快。倒れ込み方、目のそらし方、眉間の皺、もう名物満載って感じでそれだけで満足です。映画のつくりも、中央にあるべきものは中央にあって、斜めにあるべきものは斜めにあって、待ってましたの連続。宍戸錠の弟分のジュリー・藤尾がギターを抱えて歌うシーンの挿入があったりして、そんなのもよかったな。
例えるなら、観光地の温泉旅館の廊下を浴衣で歩くときのような気分。土産は宍戸錠のほっぺただな。

2007/01/11

**-祇園の姉妹/溝口健二

京都みなみ会館という映画館で溝口健二映画特集をしている。溝口作品は観たことがない。それで借りてきました。
1936年の作品。「1936年作品」より「昭和11年作品」と聞く方がずっと昔に聞こえる。戦前の日本は世界に対して遅れていた、と無意識に感じているのだろうか。

おもしろかったです。終わり方がすごかった。ひえーっ、これで終わり?そう思った。けれどそれでよいと思った。
話しや画面の展開もおもしろいし、言葉や慣習なんかも興味深くひきつける。祇園にはなじみがないが、それでも鴨川とか見知った京都の街が出てくるのもよい。
映画の撮り方が、いさぎよい。他の作品も観てみたい。
この映画に出てくるようなこの時代の男の人って、生臭さいなーと感じる。女の人もなのだろうか

2007/01/09

**-エトワール/ニルス・タヴェルニエ

フランスのパリ・オペラ座バレエのドキュメンタリー。
ダンスなど、鍛えられた肉体を見るのが大好きです。その昔、小学生になる前にバレーを習っていたこともあり、続けていたら、という気持ちが少し残っているんだろうな。
ちなみに私は猫背ですが、バレエをしていた期間だけすごく姿勢がよくなったそうだ。

想像したとおり、厳しくって、とても美しい。じっと観ていました。
オペラ座のいろんな人たちのインタビューが入るが、「バレエを生きているの、愛しているでは足りない」とか、背筋が伸びる言葉がたくさんあった。
映像も何気ないようで、画面の切り取り方などよかった。
周囲はすべて敵の世界だけれど、「オペラ座バレエ」というひとつのものをつくっているせいか、みんなある一点を見つめていて、従順な世界だと感じた。

2007/01/06

**-誰も知らない/是枝裕和

ずっと見てみたかった。この監督の作品は、distanceも幻の光もよいと思った記憶がある。
淡々としていて、子供たちがよかった。子供ってこんなに仲良くやっていくんだ、と思った。長男の顔がよかった。カップラーメンの空容器に植えた雑草やマニキュアがこぼれた跡など、小さなところもよかった。そして頭の半分で、これ、どうなるんだろうと結末を案じていた。
「あいつんち、臭いんだよ」という台詞があるが、それがなかったら臭いというのに気づくのがずっと後だったと思う。そういう映像だった。
映画は実際の事件から発想したそうで、調べてみる。字面だけ追うと、こんなもんじゃなくひどい。事件の箱を開けてみると、案外こんなだったかもしれないよ、という「誰も知らない」箱に対する監督のひとつの提案なのだろうか。

2007/01/06

*–フリーダ/ジュリー・テイモア

昔建築を勉強していたころに、メキシコにフリーダ・カーロの家を見に行ったことがある。そこで彼女の作品を知った。ビデオ屋をふらふらしていると「フリーダ」の文字が飛び込んできて、なつかしいなと思い手に取る。
最初からがちゃがちゃとしたせわしない映像だな、と思う。うーん、もっとどっしりと撮ってほしかったな。英語だし。赤い色合いもきれいだったけれど、私が感じたのとはちょっと違った。私には極彩色なんだけれど、どこかパステル調で、それが余計どぎつく感じられた。
それでも、あの「カーロとリベラの家」(ふたつの家が細い橋でつながれている)の構造がどうしてああなのか、とか、コルセットを付けた彼女の作品の背景である痛みなど、ああそうだったんだ、と思いながら観た。

2007/01/03

—アメリカの影/ジョン・カサヴェテス

うーんおもしろくないなぁ。
そう思いながら最後まで観た。
兄弟のやりとりとかおもしろいんだけれど、全体に味のなくなったガムを捨てるのすら面倒くさくて噛んでいるような脱力感があって、私の中の空気が少しずつもれていく感じ。
台詞など全部即興的なものだったと映画が終わった後に知った。65年の作品だから、それはすごいことのなのだろうと思った。ビデオの紹介を読んでみると、アメリカ・インディペンデント映画の不滅の金字塔で多くの映画人が愛してやまない監督、とある。楽しめず残念。

2007/01/01

**-髪結いの亭主/パトリス・ルコント

映画が始まった直後、さくらんぼのついた赤い海水パンツのところで、この映画 前に見たと気づいた。前回も毛糸のパンツが海水にぬれることを想像して、それは不快だ!!と思ったんだ。

黄味がかった薄いオレンジと青色の画面。とても好きな色だ。
このおじさん(ジャン・ロシュホール)、すごいなあ。小学生のころから頭の中は女性へのフェティッシュな感情ばっかり、大人になっても、一日中働く妻を後ろからじっとながめていて、たまにちょっかいだしている。仕事もしてなさそうだ。
そういうおじさんの頭の中身だけ見せられたら うへぇってなるんだろうけれど、少年時代の面影や、画面の光溢れて濃密な空気感や、アラブ音楽や、うさんくさいアラブ風の踊りと一体になって、午睡に見る夢のような後味だった。

2006/12/18

***恋する惑星/王家衛

わーい映画だ映画だ、久しぶりの映画だ。
恋する惑星、何度観たことだろう。
この映画は後半の、フェイ・ウォンとMAMAS & PAPASの歌のために観るような感じだ。どちらもすごくくすぐる。そして今回も、もだえた。
ふたつだけじゃなくて、憂いあるトニー・レオンとか、能天気な店のおじさんとか、青味とオレンジ味がごったになっている感じ、よかった。
それに賞味期限の時計が刻まれたり、フィルムが疾走したりゆっくりながれたり、何かを見ている感覚が拡大される感じにいつも引き込まれる。
いつもは飽きてしまう前半も楽しめた。金城武もよかったな。

久しぶりにこの映画を観たら、昔は新しいと感じた画面の青とオレンジの光、疾走して曖昧な感じが、旧くて懐かしい感覚になっていた。
王家衛の描くけだるい恋愛感覚はまったく理解できないけれど、映画として観るには好きだな。

2006/12/01

***みつばちのささやき/ビクトル・エリセ

この間映像が好きだなと感じたビクトル・エリセ監督の作品。

あー、これはすごく好きな映画だ。
子供がよかった。目がすごく印象に残る。子供のころの、どこか残酷なところとか、恐怖感とか、そういうのがいっぱいつまっていた。
あまり説明がなく、子供の目とか、景色とか、大人の顔とか、そういう全体でつくりあげていて、あぁすごいなぁって思う。間の取り方も好き。乾燥気味のスペイン地方の空気感や、室内の暗い感じもよかった。
1973年の映画だった。かなり前の作品ということに驚いた。